『キネマ旬報』No.1032第217号(1958年11月1日発行、キネマ旬報社、150頁)
表紙:キャスリーン・ギャラント
飯田心美「「東京物語」受賞の吉報」(35頁)
冒頭を引用する。
十月十四日ロンドンからの通信によると日本映画「東京物語」が過去一年間に英国の国立映画劇場で上映された映画のうち最高として英国映画協会から賞牌をさずけられた由である。
「東京物語」はいうまでもなく小津監督が一九五三年にはっぴょうした作で東京に世帯をもつ子供たちのくらしぶりを見にはるばる田舎から出てきた老夫婦が失望して帰ってゆく話だ。Their First Trip to Tokyoという英文題名のもとにロンドンで公開されたが小津一流の心境描写が理解されないのではないかという日本側の心配をよそに英人観客に強くアッピールしたらしい。
国立映画劇場というのは昨年十月中旬にひらいた建物で座席五〇〇というささやかなものだが名実ともにそなわる一流劇場、内外古今の傑作だけを出す理想的な名画劇場で昨年十月二十八日から日本映画シーズンを催し「蜘蛛巣城」「米」「ビルマの竪琴」「雨月物語」などと並んで「東京物語」が紹介されたわけだ。そのご各国映画が続いて上映されてきたのである。数からみても質からみても粒よりの勢ぞろいであったろうが、それらをひきはなし最高となったのだからカンヌやベニスの受賞とくらべてそん色なき栄誉というべきである。
葉山暎「旬報論壇「彼岸花」と小津様式」(70-71頁)
冒頭を抜粋する。「「彼岸花」は大変世辞を呼んで、ふだん余り映画を観ない人でも、この映画を観ないでは、何か茶飲話の仲間にはいれないような錯覚をおこしていそいしと映画館に行っているようである。観た人の話をきくと「大変いい」ということだ。「大変いい」と言うのだから「どこが?」とこちらもつい訊いてみたくなる。答えは一様に筋書を話してその後に娘を手離す親の気持ちが分かるような気がする‥‥といったていどのことで、三十位の女の人なら山本富士子の美しさ、とりわけ着物を問題にしている。手機(てばた)紬による藍色の弁慶格子、八かけにエンジの錦紗、帯はザックリした紬地の名古屋、色は八かけと同じエンジ、素晴らしいわ‥‥といった話。三十位のサラリーマンはあの格調高い渋さが、とてもいいという。なるほど「格調高い」という言葉はキャッチフレーズにもあったが、いったい「格調高い」ということはどんなことなのだろう。その他「よかったけれど生活がない」とか「もう少し娘の気持ちになったらどうか」とか「キャメラ・ポジションが低いんだわ」と今更のように言う人もいて、だいたい世辞は常識の域を出ないことを知り、かつそんなものかなと自分自身に問を発した。