全国小津安二郎ネットワーク

小津監督を巡る文献・資料

川本三郎『銀幕の東京 映画でよみがえる昭和』(1999年5月25日発行、中央公論新社、270頁)

「東京物語」(4―18頁)
※冒頭を引用する。「小津安二郎監督の「東京物語」は昭和二十八年(一九五三)に作られている(公開は十一月)。戦後の混乱期がどうにか終わり、徐々に日本の社会が落ち着きを取り戻してきたころである。なんといっても前年四月には対日講和条約が発効し、GHQ(連合国総司令部)は廃止、戦後の占領時代が終わり、日本が独立国家になったことが社会に明るさを与えていた。二十八年の七月には三年に及んだ朝鮮戦争が停戦した。「東京物語」の東京には当時のそんな明るさ、穏やかさが反映されている。そこにはもう「長屋紳士録」(昭和二十二年)で描かれたような焼跡(東京の築地あたり)も上野公園の浮浪児も出てこない。「風の中の牝雞」(昭和二十三年)で描かれた、女性が生活のために身体を売るという貧困の問題もない。」
「早春」(94―108頁)
※冒頭を引用する。「昭和三十一年に作られた小津安二郎監督の「早春」は、結婚して数年になる子どものいない夫婦(池部良と淡島千景)の倦怠期の心のすれちがいを描いている。この夫婦は大田区の蒲田に住んでいる。京浜東北線の蒲田駅と京浜急行の六郷土手駅に挟まれたあたり(大田区仲六郷)。小さな家が軒を並べる庶民的な町である。燐家の主婦、杉村春子が平気で勝手口から上がりこんできて、総菜のいただきものの礼をいい、器にほんのお礼とかりん糖を入れて返す。いたって気楽な住環境である。淡島千景のセリフに、”三ノ輪のおじさん”への家賃が滞っているとあるのを見ると借家のようだ。」

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