2018.04.27
『松竹座ニュース』第六巻第二十五號(1934年6月13日発行、札幌松竹座、16頁)
「近日公開 蒲田特作 母を恋はずや 小津安二郎監督
一年の沈黙を破り、更に新たな心境を以て新傾向の
作品を発表せんとする小津監督の自信篇
面白い映画を作り得る監督は沢山いる。しかし眞にわれわれの心を打つ映画を作り得る作家は日本では小津安二郎唯一人である。
この作品は巷に溢れる無数映画とはまるで段違いな高い世界に座しているような気がする、小津安二郎を讃える世の映画學徒たちの八釜しいほどの讃辞も別段不当でないと思われるような作品である。
先ず何より誉められていいのは題材の掴み方である。同時に、彼が掴んだ題材の性格である。そこには窺える題材のあらゆる細部に透徹する小津安二郎の誠実のこもった心づかいがある。
夫の先妻の子を本当の子よりも愛しようと力める母性、弟に対するよりもつと優しい母の心づかいを訝り、厭ふ兄、この二つの心が食い違って醸される悲劇を真正面から取り組んで描き得る素質の映画作家が日本で小津安二郎を除いて一人でもいただろうか。恐らくいないように思われる。」(11-12頁)