全国小津安二郎ネットワーク

小津監督を巡る文献・資料

『映画評論』第二巻第十二號(1942年12月1日発行、映画日本社、118頁)

グラビア「ビルマへ行く小津安二郎」
※「遥かなり父母の国」作成のため遠くビルマへ立つ小津安二郎(中)、佐野周二(右)、笠智衆(左)は地図を前に打合せをしている
飯田心美「ビルマ戦線と小津」(29-31頁)
※冒頭を引用する。
 小津安二郎がビルマへ長期ロケして撮影するという「ビルマ作戦」は、ようやくシナリオ完成し、配役も決まって、近く制作関係者一行は内地を出発するとのことである。
 このシナリオは、斎藤良輔と秋山耕作の協力を得て小津が書いたものだそうであるから、いままでのシナリオとは幾分ちがったものを持っているのではあるまいか。ストオリーをよんだ感じでは、第一に戦場が舞台であるだけにまるでこれまでの小津作品とは別趣な雰囲気で満たされている。
 然し「ビルマ作戦」という題は、どうもこの映画にそぐはないように思われる。聞くところによれば、この映画は、「遥かなり父母の国」という題名が附せられているそうであるが、私などもそれには賛成である。この映画で作者小津が意図したものは、「作戦」ではなく、ビルマ作戦に従った兵たちの素描である。ここに描かれるものは競争に従うものの心であり、戦う兵たち一人一人の偽らざる姿だ。それゆえ、この狙いはそれほど大きな全貌的な題名を必要としないのである。云ってみれば、「麥と兵隊」その他一連の火野葦平の小説をそぞろに連想させるものであり、第一人章で描かれた小説体が映画に翻案された場合は、こうもなるであろうかと思わせる一種の心境的な従軍記なのである。
 人間の心境をキャメラにとらえることにかけては他にその比を見ざる小津の作である以上、たとえ主人公がどんな立場に置かれようとその角度に変化はないわけだが、こんどのこの作品において彼が意図する戦う兵の心にわれわれ民族の心理的特徴が日本的性格を持って的確に浮び出るならば、きっと興味ある映画になるにちがいないと私は思うのである。
河西二郎「小津安二郎の考察」(90-93頁)

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