全国小津安二郎ネットワーク

小津監督を巡る文献・資料

『映画芸術』第29巻第2号(復巻52号)No.337(1981年4月20日発行、編集プロダクション映芸<映画芸術新社>、138頁)

斎藤良輔「渋谷實の映画的生涯と蒲田大船ベル・エポック回顧」(40-46頁)
※小津監督に言及している部分を一部抜粋する。
「渋谷さんとは、蒲田の時代に会った。僕が一番初めに会った渋谷さんというのは、僕が入社したのが、昭和7年で、脚本『僕の丸髷』が映画化するというので、成瀬さんの部屋で打合せ、-向こうは先輩で、こっちは教わっているようなものですけど、-してた時に、渋谷さんが入ってきた。なんかえらく威張っていた。夏なんで、バスタオルをひっかけて。ひょっと入って来て、「じゃあ、行って来ます」と言って出て行っちゃった。で、「誰ですか?」と聞いたら、「助手だよ」というんで。その当時は、まだ、渋谷さんとは言わず、片山君といったと思ったな。それで「どこへ行くんですか」と聞くと、プール行くのかどこ行くのか分からないけど、水泳に行った。水泳がうまかった。成瀬さんに「随分態度が大きいですね」といったら「態度は大きいけれど、中々神経細かいんだよ。まあ、いい監督になるんじゃないかな」といってました。まだ、僕も入りたて一年を過ぎたところだった。松竹にはシナリオ研究所があって、三年に一辺採り、僕らが第二回生。一般から試験をして入れて、ふた月か三月教えてくれる。それで卒業制作を書かせて、そのうちから三人か四人脚本部に入社できたわけです。当時、世の中の景気がよくなかったから志願者が多かった。小津さんの『大学は出たけれど』(29)が出たのが、僕らが入る前でした。
 僕らが入った時にやっていたのが、『東京の合唱』(31)。あらはなかなかの傑作で、研究所にいる頃、野田高梧さんが脚本を書いていてその話をしてくれたのを聞いた覚えがある。生徒は、四、五百人いたんじゃないかな。」
「小津さんとシナリオ奇話 小津さんというのは、もう脚本の時から自分の頭の中にイメージ出来ちゃってるんです。だから脚本書くときに一緒に書かないと駄目なんです。たいがいみんなこもって書いてます。小津さんと一緒に。僕も二、三本つき合ったけれど。これもしんどかったですがね。戦争から帰って来てすぐの『風の中の牝鶏』(48)です。評判としては、まあまあでしたけれど。小津さんのはいつもベストセラーに入ってたけれど、これは入っていない。主に茅ケ崎館で書いた。大船の仕事をする人間は、だいたい茅ケ崎館でやってた。あとは、どこか蓼科です。小津さんの脚本には苦労した。小津さんは脚本書くときには、頭の中でセットみたいなものができてしまう。人物の配置みたいなものが、だいたい。全部じゃないでしょうけれど。だから、同じ部屋で話してても、側で話してるのと遠くで話しているのでは性格のニュアンスが違いますから。それを「こんなことをいったらどうです?」と言うと「まあ、そうでしょう。」ということになるけれど、性格のニュアンスみたいなことが違いますから、パッとこうしようああしようとかいうことができますから。『風の中の牝鶏』で箪笥か何かの話がありまして、箪笥を売っちゃったとか売らないという話がありまして、するとその部屋にいて、そういうことは箪笥がなければいけない。小津さんの頭の中では、だけど、そんなことは不可能で、そうならない(笑)何か、一回、銀行の支配人の話をやる時にどうしても銀行のセットが出来ないらしい、頭の中で、また、セットを建てる能力みたないものを考える。できるかできないか。写真になってしまうとかいうことも考える訳です。それで、「これやめようや」と言って、その話やめちゃったこともある。…つづく」
淡島千景「ああ気に入らないんだナチキショウめの日々」(62-64頁)
※「小津先生とは両極端」として、渋谷實と小津監督の演出の違いについて、述べている。
「シナリオ 小津安二郎’34 出来ごころ」(65-78頁)
井上和男「小津さんの日記から」(78頁)
一部抜粋する。
「キネマ旬報の小津安二郎追悼号に載っていた「出来ごころ」の脚本と、出来上がった映画との間には、幾つかの改訂箇所がある。おそらく本読みからクランク・インまでの十日間に脚本直しが行われたのであろうが、特に、名シーンといわれる盆栽シーン-中略-やその後の親子喧嘩などがない。それと、ラストの北海道行きの汽船のシーンも、終わりまでがらりと変わっている。十年前、「小津安二郎・人と仕事」を刊行して以来、何故か責任を感じて、そういう形で残っている脚本も、時間が許せば、プリントと対照してできる限り完全な形にして残しておきたいと思っていた。」「プリントをスタインベックで一カットずつ、キネ旬本と対照しながら廻すことができ、収載したのがこの脚本である。」

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