2021.08.14
『映画芸術』第18巻第1号270号(1970年2月1日発行、映画芸術社、122頁)
「小津安二郎の芸術(第十三回)初期の作品(つづき)」(70-73頁)
※冒頭を引用する。
「後年の小津は、一年に一本づつ、念には念を入れた仕事をやり、一つのショットを何十回と撮り直すという慎重さで有名になったが、監督になってから四、五年間の新人時代には、そうとう猛烈なスピーディな仕事もした。昭和四年の『突貫小僧』などもそのひとつで、短篇ではあるが三日ぐらいで撮っているという。今日のテレビ映画でもこうはスピーディに撮れないであろう。もっとも、この作品など、内容は単純なものである。下町の路地裏で遊んでいる子どもの一人を、齋藤達雄の誘拐魔(当時は人さらいと言った)が誘拐しようとするが、子どもは平気で、あれを買ってくれこれを買ってくれとねだったり腕白ぶりを発揮したりするので、とうとう持てあまして死の路地に送り返す。するとその子ども、また遊びつづけている仲間に、このおじさん、なんでも買ってくれるよ、と言うのがオチになっている。この原作は野津忠二という名前になっているが、野田高梧、小津安二郎、池田忠雄、大久保忠素の四人の合作である。当時ドイツのビールが輸入され、四人で飲もうということになって、飲み代かせぎに書いたものだそうである。」(70頁)