全国小津安二郎ネットワーク

小津監督を巡る文献・資料

『映画芸術』第17巻第7号263号(1969年7月1日発行、映画芸術社、118頁)

佐藤忠男「小津安二郎の芸術(第六回)小津演出のスタイル(その五)」(68-71頁)
※冒頭を一部引用する。
「小津安二郎は、撮影にあたっては、すべてのショットを、自分でカメラのファインダーを覗いて細心の注意をはらいながらつくりあげていった。監督の中には、撮影のことはほとんどカメラマンにまかせて演技指導に熱中するタイプと、積極的にカメラマンの領域にふみこんでいくタイプとがある。カメラをいちいち覗いてみるタイプの監督のなかには、古くはジョゼフ・フォン・スタンバーグ、新しくはクロード・ルルーシュやサタジット・レイのように、自分でカメラマンを兼ねるにいたる人物まである。小津安二郎は自分でカメラを回しこそしなかったが、カメラマンを兼ねているに近いようなやり方をしていた。そして、演出にあたってまず第一に重要視したのは小道具に位置であった。日本家屋の室内場面の撮影では、小津は、まず、セットの室内においたさまざまな小道具、たとえば机とか火鉢とか座布団といったものの傍に一人ずつ助手を立たせ、自分はカメラの後ろに座って、カメラのファインダーを覗きながら、「その机をもう三センチ左へ」とか、「その座布団をもう五センチ右へ」などと指示して、小道具の位置を厳密に定めた。その作業がえんえんとつづいて、みんながくたびれてくると、小津はよく、「右へ」「左へ」というかわりに、「東京よりに」とか「熱海よりに」という冗談をとばして助手たちをくつろがせた。俳優たちの位置が指定されるのは、こうしてさまざまな小道具の位置が決定されてからであった。」

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