全国小津安二郎ネットワーク

小津監督を巡る文献・資料

『映画芸術』第17巻第6号262号(1969年6月1日発行、映画芸術社、118頁)

佐藤忠男「小津作品のスタイル・その4 小津安二郎の芸術(第五回)」(71-74頁)
※冒頭を一部抜粋する。
「小津安二郎にとって、彼がその作品の中でつくり出した人物たちは、すべて、彼の家に招待された客のような存在であった。そのように見えるいちばんはっきりした理由は、彼は、その作品の中でつくり出した人物たちに対して、失礼な撮り方や、失礼なふるまいを一度もしたことがなかったからである。人が、自分のこういう状態や、こういう姿は他人に見られたくないと感じるようなもの、それを、小津安二郎は、彼がつくりだした人物たちにいちども演じさせなかったし、撮ろうとしなかった。それだけでなく、小津安二郎は、彼がつくり出した人物たちに、つねに、他の人物に暖かく見守られていることを意識せずに行動している人物は、小津安二郎の作品にはほとんど出てこないのである。ということは、小津安二郎がつくり出した人物たちは、若干の例外を除いて、つねに、礼儀正しく行動するということであり、ときには、招かれて緊張している客のように、角に固い表情とポーズにさえもなった、ということである。簡単に解釈すれば、固い表情やポーズは、俳優たちが小津の名声と厳格すぎる演技指導に気押されて、のびのびした調子を失ったことになるが、同じように厳格極まる演技指導で有名だった溝口健二監督は、てっていしたリハーサルの繰り返しの末に、俳優たちの演技を完璧な自然さに到達させようとした。ところが小津安二郎は、てっていしたリハーサルの繰り返しの末に、俳優たちの延期を完璧な行儀よさに結晶させようとしたのである。おなじように完全主義といい、厳格主義とは言っても、ふたりの巨匠の目指していた方向ははっきりと違っていた。

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