全国小津安二郎ネットワーク

小津監督を巡る文献・資料

『新潮』第百十七巻第十二号(2020年12月7日発行(11月7日発売)、新潮社、468頁)

平山周吉「小津安二郎 第五回 第五章 「大和はええぞ、まほろばじゃ」(266-276頁)
※冒頭を引用する。
「昭和二十六(一九五一)十月三日に封切られた「麦秋」の同時代評を読んでいると、「麦秋」に強く影を落とす戦争について、言及されることが少ない。「南方での戦死」、「徐州戦」、「尋ね人の時間」など、それとわかる話題がセリフに出てくるのに、もっぱら鎌倉での中流の生活、二十八歳の原節子の縁談にばかり興味が向かっている。戦争の傷跡はまだまだ残っていても、戦後を生きる日本人の関心は目の前のことに集中してしまっていたのだろうか。「麦秋」の登場人物には、「空」を見る人物と、「空」を見ない(あるいは見ることを忘れた)人物がいると前章で指摘した。前者の代表が菅井一郎・東山千栄子の老夫婦であり、後者の代表が長男の笠智衆と悪ガキ兄弟である。原節子は戦死した次男・省二の親友だった二本柳寛との結婚を自分で決めることで、前者に属すことを無言で決断する。昭和二十八年(一九五三)の「東京物語」では、その原節子は戦争未亡人役だが、最後のほうで亡き夫のことを、「でもこのごろ、思い出さない日さえあるんです。忘れてる日が多いんです」と告白する。忘れることがむしろ自然なのだと、小津は苦く観念したのだろう。」(266頁)

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