全国小津安二郎ネットワーク

小津監督を巡る文献・資料

『新映画』第四巻第六號(1947年7月1日発行、日本映画出版株式会社、34頁)

表紙:原節子
河上英一「映画批評」(30―31頁)
※小津監督の部分を紹介する。「小津安二郎帰還第一回演出作品『長屋紳士録』の焦点は、前作『父ありき』以来五年間前線にあって対インド向映画製作にあたっていたといくたびか報道された。その体験と時間がどれだけ小津イデオロギーを進展させたかにかかる。これを期待するのはぼくのまちがいだろうか。ともかく最大の不満は池忠に協力を求めた脚本と、相も変らぬ河村、坂本、笠、飯田、吉川を集めなければ、意図するものを発表できぬあまりにも消極的な態度である。例によって低いカメラの位置、片言隻句まで行き届いたダイアローグで、當今がさつな、そして軽薄極まる映画が横行する中では、まれにみる糞おちつきにおちついた作品ではあるが、昭和七年『生まれてはみたけれど』以来、十一年間の小市民的な小津作品のいずれにも、その作中人物に共感し得られたのに、この作品が観客席との間に深い溝を作っているのは、長屋の人々の人情の世界が全く実生活に裏付けされていないところに起因するのではあるまいか。なるほど繪面は焼跡のバラックに生きてはいるものの、昭和二十二年の時代感覚に故意に眼をつむった頗る観念的な人情噺以上のものではない。とりあげられる世界はいかにちっぽけで狭くとも、名匠は名匠らしくそこに内包された問題の解明を広く大きくありたく願うのはぼくひとりだけだろうか。」

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