『キング』第十巻第四號(1934年4月1日発行、大日本雄辯會講談社、648頁)
「映画監督打明け話座談會」78-91頁
出席者(イロハ順)池田義信、石山稔、野村芳亭、小津安二郎、五所平之助、清水宏
※小津監督の発言を取り上げてみよう。小津監督は9回発言している。
小津「どういう人が伸びるかというと、しっかり個性を持った人です。直ぐ有名なスターを真似たり、同化したりするような人は、決して成功しません。真似したのでは、そのスター以上になれませんからね。聡明な人、美しい人もよいが、しかし、それだけでは足りない。例えば、線の太い人、或いは反対に性格的な弱い線を持った人、いずれにしても特徴のある型の人がその持ち味を生かすことによって成功します。例えば岡譲二君など線が太くて、活躍していますし、この間亡くなった岡田時彦君などは千の弱い人ですが、やはり、その弱さを生かしてた役者でした。だから顔ばかり美しくても駄目です。むしろ口だけで親しめる人、という具合に全体的に言えば不均衡な容姿の人でも、その特徴によって成功している例が沢山あります。松之助は口と眼に魅力がありましたし、栗島さんなどはあのやや腫れぼったいようなーというと池田さんが怒るかもしれないが、あそこがやはり一つの特徴でしょう。」
小津「映画を製作するのは、せんべいを焼くのと同じで、何時も同じことをしているように思うのですが、結局、一本一本違います。人はどう見るか知らぬが、自分としてはそれぞれに力を入れているつもりです。で、五年前のものでも、今から見れば幼稚かも知れないが、あの時はあれでよかったと思う。しかし、田舎の常設館などで、自分の古びた、キズだらけの写真をみると、ちょいと淋しくなりますね。」
31歳、監督歴6年の小津が、自分の作品を見ること、そしてその感想に言及していることは興味深い。