2017.07.19
『映画評論』第八巻第八號(1951年8月1日発行、映画出版社、122頁)
「特集:映画監督論」
津村秀夫「小津安二郎」(20‐23頁)
※一部引用する。「少なくとも戦争中の大活躍に引きかえ、戦後は急変して共産党に秋波を送ってみたり、かと思うとまたするりと逃げて見たりする人物にくらべると、人間的信頼がおける。彼と社会との間には確実にある一片の頑固な障壁はあろう。空気の流通は無論悪く、密室に彼は一人座している。彼を風俗作家などと思うのは大きな誤りで、風俗などには大して興味もないのである。ただ彼の趣味の窓を通してみた角度の中に入る世相風景の面白さが、ともすると風俗作家と錯覚させるのであろう。もし風俗作家というものを選ぶなら、故島津にしろ現代の黒澤明や吉村公三郎の方がより濃厚に風俗作家的資質を持っている。風俗作家というものは、おのが作物の中の人物にそう潔癖な好き嫌いを露骨にしては落第である。小津作品の人物を注意してみたまえ、どれもこれも似たりよったりで、小津好みの登場人物というもにはなかなかやかましい条件と規格が要るのである。(いや、ワン・カットの風景にすら小津好みの布置と条件が要るので、時として不自然に感じられることもある。」(22頁)