全国小津安二郎ネットワーク

小津監督を巡る文献・資料

『映画時代』第四巻第四號(1928年4月1日発行、文藝春秋社、128頁)

城戸四郎「喜劇短篇ストオリー応募者に告ぐ」(80頁)
冒頭を引用する。
「映画雑誌界に於て映画時代は大なる権威を持つ雑誌であるが、同誌の好意によりて、蒲田撮影所にて作るべき喜劇短篇(ストオリイ)を募集する機会を得たことは自分としては、非常に喜ばしく感じ同時に期待を持っている次第である。
 かく喜劇を募集するに至った理由を一言述べんに、何も米国に倣う訳ではないが、輓近の民衆は生活に明るさを要求する熱が大いに昂まり従って努めて笑いを求むる様になってきた、是は不景気に対する反動作用ばかりでなく、民衆が知的に進めば進むほど、人間生活に於ける軽い矛盾に依る笑いを喜ぶ様になって来るものである、殊に今日の時代劇の如くややもすれば立ち廻りのカメラ技巧にのみ狂奔して内容のよさを怠りがちになって一般民衆が漸く倦怠を覚ゆる様になって来ては、益々喜劇というものが必要欠くべからざる地域を占むるに至ったのである。
 然るに応募されたる喜劇筋書きを拝見するに兎角見当をはづす傾きがある故、一言将来の応募者の参考に述べたいと思う。
 今喜劇を分解するときは、動作に基く笑いと、筋の内容に依る笑いの二つに区別することが出来る、前者はややプリミチフであって、後者は高級といへばいへよう、然し現代喜劇としては、両者とも必要なものである、人によりては前者の後者よりも低級なりとなして卑しむ者もあるが、実は前者の方が脚本を作るに於ては後者よりも遥かに困難なのである何となれば後者は筋の内容さへしっかりしていれば監督俳優の技能が劣っていても、さして著しき失敗をきたす場合が少ないのであるが、前者によりては俳優の演技と小道具の扱い方が重大な使命をなすものであって従って筋が脚本上十分腕を振るい得られるものでなければ直ちに失敗する。‥」
高野斧之介「短篇喜劇ストオリー女房紛失」(新懸賞募集短篇喜劇ストオリー当選作)(81‐
「重たる人物 彼。彼女。彼の妻君。自称名探偵。泥的紳士。伯父。時代 〇一九三〇年代。〇機械文明のもっと発達したる中央都市。
 若い夫婦がありました。そして夫を彼と呼びます。彼は、彼の伯父が『お前の宝刀が止むまでは遺産は絶対に渡されぬ!』と憤慨した位、日夜放蕩を続けていました。だが、決して彼だって遺産が欲しくないわけでも、また妻君が嫌いだというわけでもないのです。ただアイあいにくと木の股から生まれた人間ではなかったというだけに相変わらず浮気は止まなかったのです。
 ある日です。彼は洒とした型に、得意の微笑をたたえながら賑やかな街へ自動車を走らせていました。ふと、彼は舗道に佇んでしきりに秋波を送っているスバラシイ!断髪と足の細い一人の美人を発見しました。彼の心はモーロッホの様に変わりました。車を止めてつかつかと彼女の側に近寄ると丁寧に言うのです。「お嬢さん!お迷惑でなかったら、お宅まで送らせて頂けませんか」両人を乗せた自動車は走り出しました。こんなことには馴れっこの彼はもう彼女とこの次の日曜日に逢う約束を交わしてしまっていました。‥」
※小津は、この当選脚本を「若人の夢」に次ぐ3本目の作品として、映画化した。封切りは6月15日である。

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