全国小津安二郎ネットワーク

小津監督を巡る文献・資料

『映画ファン』第12巻第8号通巻第132号(1952年8月1日発行、映画世界社、118頁)

表紙:淡島千景
広告「お茶漬の味」(4頁)
※小津監督の写真、流麗!名匠小津監督の最高芸術美!撮影高潮
グラビア「お茶漬の味」(24-25頁)
※淡島、津島、佐分利、小津、木暮、鶴田、上原葉子の集合写真
「小津安二郎作品『お茶漬の味』に 上原葉子さん」(49頁)
※冒頭を紹介しよう。
 小桜葉子の芸名で子役をしていた上原謙夫人が、小津安二郎監督の「お茶漬の味」に十五年ぶりで特別出演をする。「小津先生に、出ないか?って言われてんのよ」上原さんの奥さんが、そう話してくれたのは、昨年のことであった。ところが終戦後家庭に入った人たちが映画界に戻って来た頃、奥さんにもずいぶん話があって、その度にそうしたニュースが耳に入っただけで、そのまま、消えていった。その時の理由はいろいろあったようだが、今度の時も、「上原がどう言うかわかんないから‥」と奥さんは言っていたし、また限られた範囲の人たちだけのニュースとして終わってしまうのではないかと思っていた。年が移って、小津監督の「お茶漬の味」の準備が進んでくると、「やっぱり出ないかって」と奥さんが知らせに来て下さった。
 作品に慎重な準備をする小津監督はシナリオを書き始める時にはすでに配役も予定を立て、会話の一つ一つにも細かい失敬を配ってその人らしい会話を続けてゆかれる、ときいているので、上原さんの奥さんの出演も小津監督としては、心の中で定めていたのかもしれない。
 その後、銀座で奥さんにお会いしたり、茅ヶ崎のお宅へ遊びにうかがった時「どうなったのあの話‥」「まだなのよ上原が”うん”って言わないのよ」と言うことだったが、上原さんとしても、沢山理由もあってのことに定まっているし、そう簡単に行くまいと思っていた。
 シナリオは、黒田高子の役を未定のまま発表となった想像通り、奥さんの映画出演は上原さんのOKにならず、一か月以上がすぎた。
 そうした、ある日、茅ヶ崎から電話がかかって来て、出ることになったというのである。早速、銀座で時間を定めて、お逢いした。プードルというもっともモダンなヘアー・スタイルで、相変わらずの地味なグレーのワンピース。目の白いところが、赤ちゃんみたいに青い程白いきれいな目。この目だけ見ればこの人の健康な生活が文字通り一目でわかると言った人。明るくて、子供時代からの體の訓練と、家庭の人になってからもそれを怠っていなかった故の美しいスタイル、これが上原謙夫人である。
 「よく出られることになりましたですね」「ええ、ずいぶん長くかかっちゃってね、でも、小津先生は、”自分の仕事に協力してくれ”っておっしゃるのよ、協力よ、私たちも考えちゃったわ、小津先生は私が子役時代からとてもよくして頂いていたし、上原だって保証人みたいな方だと言っている位だし、とにかく、一本だけ特別出演ということで‥」
「水車小屋も作る紳士 上原謙さん」(52-53頁)
※一部紹介する。
「奥さんが最近、映画にお出になるそうですね」
「ええ、小津さんの『お茶漬の味』に出るんです」
「何年ぶりにお出になるんですか?」
「さあ、十六年ぶりですかね。小津さんは、私の保証人と言っては大げさですが、長年いい相談相手になって下さる方なので、特別出演で一回だけ、あとは出ないことにして、上原葉子の名で出ます。小津さんはしなりを書くときに、もう、出演する人を決めているんですね。それで今度も『協力してくれ』って『協力してくれ』なんて小津さんから云われればね、どうしたって、そりゃあ‥」

佐野周二・佐田啓二(対談)「佐田啓二の魅力を探る スタア診断8」(56-63頁)

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