2024.06.11
『シナリオ文藝』第四巻第十一號(1949年11月1日発行、シナリオ文藝社、100頁)
大庭秀雄「映画月評 『晩春』その他」(56-57頁)
※一部引用しよう。
「小津さんは不思議な作家である。稀に見る静的な藝術家である。恐らくは、日本古来の藝術の伝統を最も身に付けている映画作家であろう。映画というものは、ダイナミックなアメリカ的近代装備を持った機能を駆って、あのスタティックな映画を作り上げる。最も散文的なる特性を持つトーキー藝術を、最も韻文的なもの、象徴的なものにする努力、そこには何か一抹の悲痛感さえ漂う。
俳優の顔は能面に近づく。シーンの始め終わりには静止した風景が額縁となって、我々の資格を制限する。映画が持つ流動感とか、ヴィヴィットな躍動感、そういったものはすべて小津さんによって抹殺されている。映画は苦しげに小津さんの前に屈している。野卑な譬喩を用いれば、小津さんは一種の猛獣使いだ。然し、映画という猛獣が、いつ迄小津さんの前に屈しているか、いつかは、この猛獣に小津さんは噛みつかれるのではなかろうか。」(57頁)