2022.06.19
『キネマ旬報』No.1052(1959年7月15日発行、キネマ旬報社、152頁)
表紙:Sabine Sinjen
「Close up 芸術院賞を受賞した小津安二郎」(15頁)
銀座のたそがれどき、ソフトをあみだに、飄然と街を行く小津さんをよく見かける。明治三十六年生れ、五十六歳とは見えぬがっしりした体躯が、銀座の雑踏の中に悠然とそびえている感じである。最近作、「お早よう」で奇想天外な擬音で映倫の先生方を面くらわせた。そんな茶目っ気がうかがえる飄々たる足どりである。その小津さんが、三十三年度の芸術院賞を受賞した。映画界ではもちろんはじめてのことであるが、小津さんが-ということで、映画界の喜びはひときは大きかった。人柄のたまものである。-中略-過日開かれた受賞記念祝賀会で、小津さんは求められるままにマイクに向った。満場かたずをのむうちに、高らかに軍歌をうたったという。硬骨漢、小津安二郎の面目やくじょたるものがある。激動する日本映画界の中にあって、このガンコさは、ますます貴重なものといえよう。